キーワードエッセイ

土中環境

土中環境

鈴木 裕治

目に見える部分だけをデザインすることがランドスケープデザインではない。ランドスケープとは、その名の通り「ランド=土地、地面」に根差す風景(スケープ)を指し、この「ランド」を支えるのが「土」そのものである。植物は土から養分を得て育ち、雨は土中に浸透して流れやがて川や海になる。5億年をかけてつくられた土には、細かく砕かれたさまざまな石や金属も見つかる。この目に見えぬ土のなかに目を向けてみると、そこにはまるで第2の宇宙のように深い世界が広がっている。わたしたちランドスケープアーキテクトにとって、土のなかの状態を把握し、その土地の自然に適した環境へと改善することは、実はデザインするにあたって大切な第一歩なのである。

土のなかには大きく分けて無機物と有機物が存在している。無機物は粘土や砂、鉱物などで、有機物とは、文字通り微生物や昆虫を含む小動物などが有機的に生きている状況である。そこに生育する植物はもちろん、気候による変化が加わることで複雑な関係が生まれ、土は刻々と変化し続けている。自然の影響下で同じ状態の土はひとつとして存在しない。

近年「土中環境」(※)という言葉が話題になっているが、我々も土中の環境改善に取り組んできた。ランドスケープデザインでは、植物が健全に育つための土壌づくりを行い、雨水が浸透して地下を通り、貯水され、川や海に流れ出すまでについても考える。土中には都市のインフラを補うだけの力が備わっており、わたしたちには、その力をさらに高めていくような持続可能性のある仕掛けをつくることが求められていると思う。

風景をつくるためには、まず土のなかの環境を整える。建築において構造が基礎であるように、ランドスケープの構造はまさに「土中環境」そのものである。この基礎を学び、実社会に役立てるという「学不必要」の考え方をかたちにできる専門家は、ランドスケープアーキテクトだけなのである。

※「土中環境」は、環境再生に取り組む高田広臣氏(高田環境造園設計事務所)が提唱する概念で、土のなかを通る水や空気の流れを整えることに主眼を置き、環境を改善する考え方と手法を指す。

2025年10月31日