キーワードエッセイ

虫
屋外空間において、虫の存在ほど種々雑多な捉え方をされる存在はないのではないだろうか。屋外の快適性を追求する、あるいは有害な虫から身を守ろうとすると、可能な限り排除したい対象になる。一方で、地球環境という視点から見れば、花粉媒介や有機物の分解、ほかの動物の食料源など、担う役割は大きく、必要不可欠な存在であることは言うまでもない。また、一部の昆虫収集家やこどもたちからは「お宝」のように扱われることさえある。小さな固体でありながら、人の記憶や感覚、環境に与える影響は大きく、人と自然の接点を象徴するような存在と言えるだろう。
だからこそ、屋外空間の設計においてと虫との関係を検討することは重要であり、虫をよく知ることは、設計者にとっても利用者にとっても、環境啓発の視点からも非常に有効だと考える。計画時に地域の潜在植生を踏まえて植栽計画を立てるように、地域に生息する虫についても理解を深めた上で、ランドスケープデザインを行うべきである。
リゾートと公園では虫に対する扱いがまったく異なる。しかし、どんなに嫌われる存在であっても完全に排除することはできず、またすべきでもない。どんな施設にも虫は存在するのであって、その虫がどういう役割で、環境にどう影響するのか。新たな開発が虫たちの生育環境にどのような変化をもたらすのかを、利用者に真っ向から伝えてみてはどうだろうか。植物の知識を深めるために樹名板を設置するように、虫の役割を知らせる「虫名板」なるものを置くのもひとつの手段である。
嫌われ者の代表格である「蚊」を例にとっても、発生の原因、なぜ人の血を吸うのか、なぜかゆくなるのか、さらには病気を媒介する危険性まで正しく知らせることで、その見方は変わるかもしれない。原因を知ることで発生を抑える手立ても見えてくるだろう。知らないからこそ嫌悪感を抱き、無条件に排除される存在になってしまうのである。
「屋外での虫の発生=殺虫剤や捕獲機の設置」という安易な発想をもつのではなく、虫をよく知ることが、人と虫にとって有益な、新しい関係をつくるきっかけになるのではないか。虫という無視できない存在は、人間が地球環境の一部を分かち合って生きていることを実感させてくれる可能性を秘めているのである。











