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取扱説明書

取扱説明書

原 行宏

一般的に取扱説明書というと、製品に付属している書類を思い浮かべる人が多いかと思う。最近では、各血液型の人の取扱説明書が出版されたり、あえて「トリセツ」と略したりして、人々の興味を惹くように工夫されているものも見受けられる。取扱説明書というものが、より幅広い場面で身近に感じられるようになってきているように思う。これは、人々がものごとに接するときに何かしらの取っ掛かりを求めているからだと想像できるが、一方で、そのものごと自体、あるいはそのつくり手がユーザーに対してプレゼンする機会を得ることにもつながっている。

わたしたちランドスケープアーキテクトも、デザインした空間の取扱説明書を作成することがある。空間は製品よりも使う人によって変化しやすく、そのなかでもランドスケープは環境や植物など自然に変化する要素が多いので、なおさらである。その変化を受け入れてデザインすることがランドスケープデザインの醍醐味のひとつだが、その施設の特性や立地などに適した将来像を施主と共有しながらデザインすることが大事であり、あらゆる変化を受け入れるということではない。施設の引き渡し当初は施設の責任者や管理担当者と将来像を直接共有することができるが、長い年月のなかで担当者も入れ替わっていき、目指す将来像が引き継がれにくい。そういったことを想定したときに、ランドスケープの取扱説明書が必要となる。

それには単なる使い方を記すだけでなく、どういった風景を目指し、それに向けてどのようなことを常に意識すればよいかを記すことが大事である。当然、ある空間が引き継がれていくなかで、新たな使い手によって空間が更新されていくこと自体はよいことだと思う。ただ、そもそもその空間がどのような意図で、どういった将来像を目指してつくられたのかが理解されているかどうかで、更新される方向はまったく変わってくる。その過程で、時間を経たからこその気づきもあるかもしれない。取扱説明書は、その対象をつくった当初の発注者やデザイナーとその後の異なる時代のユーザーをつなぎ、時間をデザインするためのツールとしても非常に有効なものになり得る。

2026年07月10日