海とまちの連続性を守る沿岸地域のまちづくり

この動きを契機に「内湾地区復興まちづくり協議会」が立ち上がり、行政と市民、さらに建築・ランドスケープ・照明の専門家たちが協働することになった。防潮堤を2つの建築とランドスケープで挟み込んだことで回遊性のある一体型の海岸公園、スローシティ観光商業施設「ムカエル」、まち・ひと・しごと交流プラザ「ウマレル(PIER7)」など、新たな公共空間が整備され、海とまちの一体感を再生する復興まちづくりが進められた。
本計画の核となったのは、防潮堤の機能性にとどまらず、地域の景観や文化、営みといった無形の価値を尊重しつつ、安全性を確保するデザインである。計画決定までの過程では、住民の意見を反映した提案が取りまとめられ、行政・設計者・工事関係者が一体となって調整を重ねた。海とまちが連続するウォーターフロントの景観が段階的に実現され、最終的には、防潮堤の海側に段状のステップガーデン、内陸側にはテラス付きの店舗を配置することで、海との視覚的・空間的なつながりを確保した。
わたしたちランドスケープアーキテクトは、県や市、港湾、道路、公園など多岐にわたる部署が別々に進めていた計画を統合し、ひとつの風景にまとめることに注力した。その成果の一部が、海に向かって設けたステップガーデンや隣接する芝生の斜面である。これによって、2階の店舗から段状に広場や海へとつながり、防潮堤を感じさせないデザインとなった。また、段差を利用して座って海を眺めたり、芝生で寝転んだりとさまざまな活動ができるスペースを確保しながら、海と建築がつながる場を創出している。
さらに、防潮堤や岸壁、公園といった複雑に交錯する土地・施設の所有と管理を整理し、まちづくり会社が中心となって関係機関と連携することで、エリア全体をシームレスにつなぐ空間へと再構築された。ここでは、観光客と地域住民の交流が促進され、新たなまちのにぎわいが生まれている。防災施設としてだけでなく、地域文化と経済の再生を担うハイブリッドな空間は、未来の沿岸地域のまちづくりのモデルケースとなっている。









Data

気仙沼内湾ウォーターフロント復興計画
| 竣工 | 2025年3月 |
|---|---|
| 規模 | 6,500㎡ |
| 住所 | 宮城県気仙沼市南町海岸1-14( 迎[ ムカエル ]) |
| 業務内容 | 基本計画、基本設計、実施設計監修、設計管理協力 |
| 施主 | 宮城県、気仙沼市、気仙沼市地域計画 |
| 協働 | 建築:住まい・まちづくりデザインワークス(現・合同会社KISUI SEKKEI)、株式会社アール・アイ・エー 土木:株式会社日本港湾コンサルタント東北支社、株式会社三洋コンサルタント、株式会社エイト日本技術開発 照明:ぼんぼり光環境計画株式会社 写真:有限会社オンサイト計画設計事務所 |
| 担当 | 長谷川 浩己 須貝 敏如(元スタッフ)、張 立(元スタッフ) |
| 受賞歴 | 日本都市計画学会 計画設計賞(2019年) 日本建築学会作品選集入選(2020年) これからの建築士賞(2019年) 2019年度グッドデザイン賞 |
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