寡黙な広がりをもつ、一枚の大きな水盤

本計画では、大きな水盤をつくることで、逆さ富士のかたちをした建築を美しく映し出すとともに、富士山の湧水の豊かさを感じられ、さらには富士山そのものも映しこむことを目指した。しかし、大きな水盤をつくることはそう簡単ではなく、実に多くの関係者(県、市、神社、土地の所有者、近隣者、施工者、設計者)の調整と、尽力が不可欠であった。その結果として、まちなかに寡黙な広がりをもつ、一枚の大きな水盤が生み出されたのである。
たとえば、この水盤は市有地と県有地、私有地をまたいでいるため、水盤内に管理区分を明示する必要があった。そこで、石目地(いしめじ)の向きを変え、スチールエッジなどを用いることによって、管理区分をデザインのなかに取り込み、各敷地所有者との合意形成を図った。また、水底の黒い石舗装はプロポーザル要綱の規模を超える計画であったため予算確保が難しく、実現が危ぶまれる場面もあったが、石材施工者の熱意と発注者の調整、施工工程の工夫によって実現し、水盤に品格をもたらすこととなった。
水盤の水深は40mmという浅さに設定しており、映り込みをよくすることと同時に、イベント広場としての活用もイメージしている。さらに、将来的に水盤躯体が傾いてしまうことを想定し、地盤改良杭を水盤躯体の下全面に入れ、水盤の水平性が長期間保たれるようにした。加えて、水面と人が歩く舗装との距離をできるだけ近づけるために、水際のディテールにも細やかな工夫が施されている。
このように、さまざまな背景の上に成り立っている水盤は、多くを語らず、抽象的な水平面をつくることに徹することで、周辺の風景の映り込み、水の揺らぎ、光と影といった事象をこの場所に立ち現わさせる。寡黙であるがゆえに、訪れる人々がそれぞれの想いでこの場所を感じ取り、富士山という風景資産をより深く、印象的に感じる場所となることを願っている。









Data

静岡県富士山世界遺産センター
| 竣工 | 2017年11月 |
|---|---|
| 規模 | 6,086.7㎡ |
| 住所 | 静岡県富士宮市宮町5-12 |
| 業務内容 | 基本設計、実施設計、設計監理 |
| 施主 | 静岡県 |
| 協働 | 建築:株式会社坂茂建築設計 照明:株式会社ライティング プランナー アソシエーツ 電気設備:Arup 機械設備:Arup 写真:吉田 誠 |
| 担当 | 三谷 徹、鈴木 裕治、丹野 麗子、須貝 敏如(元スタッフ)、本田 亮吾 |
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