寡黙な広がりをもつ、一枚の大きな水盤

静岡県富士山世界遺産センター

Mt. FUJI World Heritage Center, Shizuoka Landscape Design
文化居場所をつくる水辺広場・公園東海
「静岡県富士山世界遺産センター」は、浅間大社湧玉池からの豊かな富士山の湧水が流れる神田川沿いに位置する。本施設は、もともと公募型プロポーザルによって計画がはじまったが、その要項では敷地の東側半分は提案が求められていなかった。しかし、「富士山」の姿をかたどった建築を映し出す鏡としての水盤をつくるためには、十分なスケールのランドスケープが不可欠であると考え、坂茂建築設計事務所とともに、建築前面から敷地の東側半分にかけて、一枚の大きな水盤を設ける提案を行った。
静岡県富士山世界遺産センター

本計画では、大きな水盤をつくることで、逆さ富士のかたちをした建築を美しく映し出すとともに、富士山の湧水の豊かさを感じられ、さらには富士山そのものも映しこむことを目指した。しかし、大きな水盤をつくることはそう簡単ではなく、実に多くの関係者(県、市、神社、土地の所有者、近隣者、施工者、設計者)の調整と、尽力が不可欠であった。その結果として、まちなかに寡黙な広がりをもつ、一枚の大きな水盤が生み出されたのである。

たとえば、この水盤は市有地と県有地、私有地をまたいでいるため、水盤内に管理区分を明示する必要があった。そこで、石目地(いしめじ)の向きを変え、スチールエッジなどを用いることによって、管理区分をデザインのなかに取り込み、各敷地所有者との合意形成を図った。また、水底の黒い石舗装はプロポーザル要綱の規模を超える計画であったため予算確保が難しく、実現が危ぶまれる場面もあったが、石材施工者の熱意と発注者の調整、施工工程の工夫によって実現し、水盤に品格をもたらすこととなった。

水盤の水深は40mmという浅さに設定しており、映り込みをよくすることと同時に、イベント広場としての活用もイメージしている。さらに、将来的に水盤躯体が傾いてしまうことを想定し、地盤改良杭を水盤躯体の下全面に入れ、水盤の水平性が長期間保たれるようにした。加えて、水面と人が歩く舗装との距離をできるだけ近づけるために、水際のディテールにも細やかな工夫が施されている。

このように、さまざまな背景の上に成り立っている水盤は、多くを語らず、抽象的な水平面をつくることに徹することで、周辺の風景の映り込み、水の揺らぎ、光と影といった事象をこの場所に立ち現わさせる。寡黙であるがゆえに、訪れる人々がそれぞれの想いでこの場所を感じ取り、富士山という風景資産をより深く、印象的に感じる場所となることを願っている。

Data

静岡県富士山世界遺産センター

静岡県富士山世界遺産センター

Mt. FUJI World Heritage Center, Shizuoka Landscape Design
竣工2017年11月
規模6,086.7㎡
住所静岡県富士宮市宮町5-12
業務内容 基本設計、実施設計、設計監理
施主静岡県
協働建築:株式会社坂茂建築設計
照明:株式会社ライティング プランナー アソシエーツ
電気設備:Arup
機械設備:Arup
写真:吉田 誠
担当三谷 徹、鈴木 裕治、丹野 麗子、須貝 敏如(元スタッフ)、本田 亮吾
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