高低差50mの敷地につくる異なるゾーン

「星のや富士」は、河口湖畔の山腹に位置し、その高低差は50m以上に及ぶ。かつて野営場として使われていたこの場所からは、富士山と河口湖を一望することができる。低地ゾーンにはサクラやモミジが植えられた原っぱが広がり、高地ゾーンにはアカマツや広葉樹、スギ、ヒノキなどが混在する多様な植生が展開していた。こうした自然豊かな敷地に、日本初の「グランピングリゾート」として、星のや富士は、大自然のなかで贅沢なアウトドア体験ができる場として計画された。
星のや富士

本計画では、富士山や河口湖の眺め、そしてモザイク状に広がる豊かな自然環境をいかすため、敷地を上下2つゾーンに分け、それぞれに異なる過ごし方を提案した。宿泊機能を担うキャビンエリアは、富士山や河口湖の景色を楽しむ開放的な草原に設け、パブリックスペースであるクラウドテラスは、あえて富士山を見せない林に囲まれた、くつろぎの空間とした。クラウドテラスとは、文字通り、林のなかに浮かぶような居場所のことである。

ゲストはまず山麓のレセプションから送迎車に乗り、施設へと向かう。山道を上り、林のなかへと進む道のりが期待感を高め、大自然に包まれた非日常体験へと誘われる。施設に到着後、園路を案内されながらキャビンへと向かう。この園路(庭や公園内の歩行者用通路)は、その位置や高さを工夫することで、この段階ではまだ富士山が視界に入らないように設計されている。これによって、キャビンに足を踏み入れた瞬間に姿を現す富士山の眺めが、より印象的な体験として演出されている。景色を彩るサクラやモミジなどの既存樹は手入れを行い、保存した。

クラウドテラスでは、スギやヒノキを中心に間伐を行い、林床に光が届くようにすることで、既存の落葉樹の成長を促し、将来的には落葉広葉樹を主体とした明るい林へと遷移させる植栽計画を行った。大小さまざまな曲線状のテラスは、林のなかに浮かんだり、地中に潜り込んだりするように配置されており、互いに見え隠れしながらも、多様な過ごし方を提供している。視界を遮らないよう、テラスは地形に沿った段状とし、手すりも低くすることで、林に囲まれる非日常空間を演出。テラスの構造には、工場で格子状に組んだ鋼材の上にデッキ材を貼る工法を採用し、柱の配置に自由度をもたせることで、既存樹の保存や曲線形状を実現した。

林のなかに浮かぶようなクラウドテラスと呼ばれる、パブリックスペース。
富士山と河口湖を一望することができるキャビンエリア。

低地にはサクラやモミジが植えられた原っぱが広がり、高地エリアにはアカマツや広葉樹、スギ、ヒノキなどが混在する自然豊かな敷地。

Data

星のや富士

星のや富士

HOSHINOYA Fuji
竣工2015年8月
規模敷地面積53,968.78㎡のうち、約26,000㎡
住所山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408
業務内容 基本計画、基本設計、実施設計、設計監理
施主株式会社星野リゾート
協働建築:有限会社東 環境・建築研究所
構造:株式会社KAP
照明:有限会社ICE都市環境照明研究所
電気設備:タクトコンフォート株式会社
機械設備:ジーエヌ設備計画
写真:吉田 誠
担当長谷川 浩己、鈴木 裕治、野田 亜木子(元スタッフ)、田下 祐多、金井 幸雄(カナデ設計事務所)
受賞歴山梨県建築文化賞(2016年)
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