
この地は、かつて洋館が建ち並び、大岡川の護岸や上下水道が整備された近代横浜の基盤となった場所である。周辺には桜木町駅や馬車道駅といった交通拠点があり、各方面からの人々の流れが交差する。そうしたなかで求められたのは、都市の多様性と動線の結節点にふさわしい、新しい公共空間の創出であった。
本計画では、象徴性や統一感を全面に打ち出すデザインではなく、周囲の都市環境に溶け込むことを目指した。大岡川・関内・北仲という3つの異なる地域に対し、それぞれ異なる空間性をもつランドスケープを構成し、多様性を受け入れる庁舎の足元を設えた。市民がそれぞれの地区から自然に流れ込み、建築の内部空間に吸い込まれるような体験を意図し、まちと建築の境界を曖昧にしながら、「都市の交差点」としての公共空間をつくることを試みた。
大岡川に面するプロムナード(遊歩道)は、1階と水面をつなぐ大階段で構成され、全体を縦横自由に歩き回ることができる、フレキシブルな空間となっている。ステップ勾配を限りなく4:1に近づけることで、段差をゆるやかにした。また、段差にもテラスやベンチ、ステージとして機能するような要素を設け、多様な居場所を生み出した。サーモンピンクのレンガ舗装は、細やかな焼き色や目地幅の検討、照明による陰影の演出、植栽との融合など、細部にわたって工夫を凝らした。この水際の遊歩道には、大岡川の上流から続く桜並木を連続させ、常緑樹であるソヨゴを交えることで四季の変化や冬季の緑量にも配慮している。階段状の断面は植栽とも連続し、花と緑による「フラワーランドスケープ」の基盤を形成している。
敷地中央には、大岡川から立ち上がるように連続するテラス状の緑や壁面緑化、屋上テラスからなる「グリーンカスケード」(カスケードはフランス語で「小さな滝」の意)を設置した。テラス状の緑は、横浜のまちの新たな風景を構築すると同時に、建物のなかから眺めると、巨大都市を背景とした屋上庭園のようにも見える。
敷地の東側、既存の建築に隣接するエリアには、北仲エリアに呼応する「北プラザ」、関内エリアを受け入れる「南プラザ」、ガラス張りの建築「アトリウム」がある。それらを石の平板で統一し、周囲を緑のボリュームで包みこむことで、屋内外一帯の大きな広場としてまちにひらいた。北仲地区から歩いていくと、整然と並ぶ高木植栽を骨格とした広場に迎えられ、透過性の高い空間のその向こうに関内側の緑が透けて見える。関内側には建築の屋根下空間に沿って、家具が組み合わされた花壇が連続し、ヒューマンスケールの居場所が生まれている。
アトリウムと隣の建築の間にある緑道は、地区計画上の歩行者用通路として位置づけられ、馬車道駅からの来庁者を迎える「顔」として、またアトリウムでのイべント時の背景としての役割も担う。この通路は、2つの建築の壁に挟まれ、植栽環境としてはあまり恵まれない条件下にあるが、「植栽や照明を除き、有効幅員6m以上を確保する」「清掃用ゴンドラの着地エリアを設ける」「建築地下躯体との干渉を避ける」などの要件を踏まえた上で、地被植栽とグリッドに配した飛び石パターンの床、可能な限りランダムに配置した中高木により、雑木林のような散策路を実現した。
また、みなとみらい側の水辺広場では、階段状の芝生が水際に向かってひらかれ、イベントや憩いの場として利用することができる。その周囲にはローズアーチや壁面緑化を伴う植栽と家具が一体となった、緑豊かな居場所がある。都市の歴史・地形・環境・活動を受け止め、まちにひらかれたこのランドスケープが、これからの横浜の日常の風景となることを目指した。














Data

横浜市役所
| 竣工 | 2020年5月 |
|---|---|
| 規模 | 敷地面積13,142.92m2 |
| 住所 | 神奈川県横浜市中区本町6-50-10 |
| 業務内容 | 基本設計、実施設計監修、設計管理協力 |
| 施主 | 横浜市 |
| 協働 | 建築:株式会社槇総合計画事務所、株式会社竹中工務店 照明:有限会社ライトデザイン サイン:株式会社ケイエムディー フラワーランドスケープ:白砂 伸夫 写真:吉田 誠、有限会社オンサイト計画設計事務所 |
| 担当 | 三谷 徹、鈴木 裕治、田下 祐多、鯨岡 栞(元スタッフ) |
| 受賞歴 | 第10回 横浜・人・まち・デザイン賞(2022年) |
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